「昨日の仁さん見てると、やっぱり何か千秋には言いにくいような事があるような気がしたんだよね。」


「…え?」


「仁さんには余計なこと言うなって言われたんだけど。」


「…何?」


「もしかしたら、事務所から何か言われてるんじゃないかな。」


「え!?」


「昨日話してる途中に事務所の関係者の人が入って来てさ、私の事彼女だと思ったみたいで……すごい剣幕でもうジンに関わるなって言われて。」


「どっ…どういう事!?」


「私思ったんだけど…仁さんはメンバーみんなの夢を背負ってるわけじゃない?」


晶子はじっと私の目を見つめながら話しを続けた。


「きっと千秋の事はすごい好きなんだと思うけど、それと今まで築き上げて来たメンバーとの絆を天秤にかける事は……、できないんだと思うよ。」


メンバーとの絆……


「プロとしてやっていく覚悟があるならルールを守れって…事務所の人に言われてたし。」


「じゃーどうしてちゃんとそう言ってくれないの!?隠さずにそういう理由があるからって話してくれればいいのにっ。」


「そしたら納得した?」


“ドキッ…”


「それはぁ……」


「仁さんなりに考えての事だったんだと思うよ?中途半端な事言って期待持たせちゃいけないって。」


「けど……」


「どうする?諦めつく?」


私は晶子のその問いにすぐ答える事ができなかった。


すると晶子がテーブルに一枚の紙を置いた。


「たぶん、今仁さんの携帯に電話しても繋がらないと思うから。」


「これは?」



「事務所の人がくれた名刺。」


「……。」



そこには“佐田あきこ”と書かれていた。


「“これから仁に用がある時は私を通してくれ”って…言われた。」


そこまで…?


そこまで制限されなきゃならないの?


もうなんだか随分遠い世界の人に


……なっちゃったんだな。


私はただ、震える手でその名刺を握りしめ続けた。