「なんでそんな事言うの!?」


私は仁の腕を掴み返した。


「ずっと考えてた。」


「何を!?」


「同時に二つは手に入らないって事……。」


「……。」


「俺には俺の人生がある、それにあんたを付き合わせるのはどうなのか……って。」


「付き合うよ!?言ったじゃん、仁の夢は私の夢だって!」


「……。」


「なんで別れるなんて……。」


「別れるってのは大袈裟かもしれないけど……。今は離れた方がいいと思うんだ。」


まっすぐ私を見る仁。


「……何、嫌いになった?」


「違うっ。」


「じゃー付き合うのが面倒になった?」


「ちがうっ。」


「なら、離れる必要ないじゃん!私、デートとか出来なくても平気だよ?会えなくても電話さえできればっ……」


「集中できないんだ。」


え……?


私の言葉を遮るように仁が言った。


「あんたの事が気になって、仕事に集中できない。」


その言葉を聞いた時、私はなんだか仁の本音を聞いた気がした。


仁は私を力いっぱい抱きしめた。


「待っててくれとか……そんな偉そうな事は言えないけど」


“ギュッ…”


「俺がもっとでっかくなるまで見守っててくれないか。」


見守る……?


「もっと努力して上に行くから。そしたら胸張って迎えに行くから!」


「……。」


そんな悲しい声で言うなんて卑怯だよ。


そんな事言いながら、もうとっくに決意してるくせに。


私がなんて言おうと、考え曲げないくせに……。


まだ付き合って一ヶ月も経ってないよ。


やっと向き合えたんだよ?


あの時『信じてついてきて欲しい』って言ったのは嘘だったの!?


色んな思いが頭の中を駆け巡った。


腕を掴む私の手を仁はそっと引き離した。


「私何も望まないから。」


涙声でそう訴える私を、仁はとてつもなく悲しそうな顔で見つめている。


やっと好きだって言えたのに……。


こんなに簡単に崩れちゃうものなの?