「……あってか、今何時だっけね!?」


「千秋……」


“ドキッ”


座ったまま仁がこっちを見ている。


何……


何を言おうとしてるの?


そんな顔しないでよ……。


仁はゆっくり立ち上がり私に近寄ってくる。


そして、私の左手を軽く握りしめてこう言った。


「こんなんで楽しいか?」


「え……」


「辛いだろ。」


ポロッと大粒の涙が床に落ちた。


私は首を激しく横に振った。


「会いたいのに会えない、会えたと思ったらまた仕事……」


また首を振る。


「俺、正直今仕事が楽しくて仕方ない。こんなに休む暇もないくらい忙しくても辛いと感じないんだ。」


「……。」


「やっぱり音楽が好きなんだって思い知った。」


「……。」


「けど……」


握りしめる仁の手に力が入る。


「俺がそうやって自分のやりたい事やってる間、あんたは俺を待ってて寂しい思いをしてる。」


「……。」


「そう考えたら辛いんだ。」


仁……


「もっと後に出会えてればよかったのかもしれないな。」


え……


そう話すと仁は私から目を反らした。


「……なに?」


何か言いたそうなのに躊躇している。


沈黙が流れてしばらくして仁は重い口を開いた。


『別れよう』


えっ……


なんで……!?