気付いたらわたしは肩に乗った温くて優しい手を振り払っていた。
ぱしり、と大きな音を立てて、払い除ける。
その行為は無意識のうちにやっていて、わたし自身も驚いた。

痛そうな掌をさすりながら、舞香が信じられないと言わんばかりの目でこちらを見てきた。
そしてそのときやっと気付く。
しまったと心の中で叫ぶ。

だけどもうとまらなくて。
わたしの口は言うことを聞かなくて。

「いつもいつもそんな能天気で……いい加減うざいのよ! こんなにみんなが悩まされて、悲しんで、泣いてるっていうのに……前向きな考えが全部いいことに繋がるとでも思っているの?」

心の中では舞香に申し訳なくって謝り続けているのだけど、口は勝手に舞香を罵る。
言ってほしくない言葉も、全部。

「考えをどうしようとこの状態は変わらないのよ! ほら、みんなの顔を見てよ。あんたの戯言に付き合ってるほど余裕ないのよ!」

柄にもなく叫ぶ。
恥ずかしさと悔しさと後悔が体の中を駆け巡る。

わたしは叫びすぎたせいか息切れをする。
そして何も言わぬ舞香に疑問を持ち、ちらりと舞香の表情を窺った。

眉は下がっていて、口はきゅっと結ばれて、いつも無邪気に微笑みかけてくれるその目は悲しみで溢れている。
そんな舞香の表情を一目見ただけでわたしの胸は締め付けられたように痛んだ。
だけど口は元気を取り戻して追い討ちをかける。