周りがそんなことを察したことを、表情がさらに暗くなったことで理解した。

「あ……あ、あああ、ああ……」

そんなとき再び聞こえる呻き声。
それはやはり伊藤さんのもので。

「独りはやだよ……也智……也智、也智、行かないで、行かないで」

伊藤さんは自分の体を抱き締めて、がたがたと震えて、力なく叫んでいた。
その叫び声はわたしの心の中にするりと入ってきた。

冷たく広がるその気持ち。
悲しみが心の中で爆発する。
安藤を亡くして追いやられた伊藤さんの嘆き。

わたしは意味が分からなく隣にいた舞香に視線で伊藤さんはどうしたのかと聞いてみた。
すると舞香は仕方なさそう肩をすくめると、わたしの耳元に囁きかける。

「伊藤さんね、安藤と付き合ってたんだよ。なんかすっごいのめり込んでいたらしくて。あ、也智って安藤の名前ね」

改めてわたしの情報網が薄いことを実感した。
それと伊藤さんの愛の濃さも。

心の底で、羨ましがっていた自分がいた。
こんなにも真剣に人を愛せる伊藤さんが、わたしはちょっぴり羨ましかったのだ。
わたしは人生において一度も人を愛したことがないから。