「じゃあお前は、今死んだ方が幸せなんだな」

そしていつもより低い声で呟く。
その声はなぜかしゃがれて聞こえた。

ちょっと考えが矛盾しているけれど、今すぐ死にたいとは思わなかった。

そのことを言おうと口を開くよりも早く、桧野が即席の洗面所へと歩く。
そして杉村がわたしたち女子のためにか置いてくれた手鏡を手に取ると、それをしばらく見つめていた。

すると何を思ったのか、桧野は手鏡を床に落とした。
うっかりではなく、意図的に。
ばりんという凄まじい音と共に、ガラスが飛び散る。

わたしは桧野の行動の意味が分からなく、ただ呆然と綺麗に割れた鏡を見つめていた。

桧野が比較的大きめのガラスの破片を手に取ると、わたしの方に向かってきた。
なんだろうと思って首を傾げていると、桧野がいやらしい笑みを浮かべて言った。

「俺がお前を……幸せにしてやるよ」

その言葉が何を意味していたかだなんて、そのときは分からなかった。
驚きと恐怖で思考がショートしていたから。