ものすごく抑えつけられているような感覚を覚えた。
一見冷静な桧野からは、ひどい憤怒の感情が溢れ出ているように感じた。

「お前……死ぬのが怖くないのか?」

ふふんと鼻で笑いながら桧野が聞いてくる。
わたしは唐突な質問にしばらく考えたものの、やがて決意したように口を開く。

「……怖いけど、ここで死ぬのを待つよりはいいよ」

まだわたしが幼い頃、注射をするのが嫌でお母さんや看護師さんを困らせた思い出がある。
そんなとき看護師さんは、「痛いのは一瞬だから、早くやった方がいいわよ」とわたしを宥めてくれた。

そう、痛み、苦しみを感じるのは一瞬なんだ。
そのときが訪れるのを体を震わせながら待っているより、早めに死んだ方がマシだ。

怖いとか怖くないとかの問題ではないのだ。

わたしは胸を張って桧野を見据える。
桧野は何を考えているのかよく分からない漆黒の瞳でこちらをじいっと見つめている。