そんなとき後ろから聞こえる低い声。
聞きなれない声だったので、驚いて振り向く。

「伊藤の言うとおりだよ」

後ろを振り向くとそこには腕組みをした桧野がいた。
怒っているのか、いつもより一オクターブくらい声が低い。

「死んだらもう終わりなんだぜ? それを羨ましいなんて、お前頭いかれたか?」
「だって……」
「俺たちには希望があんだよ。まだ生きてるんだから。だけど死んだやつらは希望なんて欠片もない。分かるか?」

わたしの言葉を遮って、桧野が言う。
表情を全く崩さず、他人に口を開く隙を与えさせないスピードで。

「だからあんなこともう二度と口にするな。先に死んだやつに対して失礼だぞ」

ぽん、と桧野が軽くわたしの肩を叩いた。
桧野の言ったことは最もで、わたしの方が間違っているのは分かった。分かっている。分かっていた。