「…あ」
人がいる、と思ったときにはもう遅かった。
目が合った、と思ったときにはもう向こうは声を発していた。
「クリュっちじゃん」
「どこから浸透した、その呼び名」
トイレの個室に入ると、すでに人がいた。
名前が複数あって、なんて呼べばいいか分からない、この男。
この涼しい上空を漂う艦の中で尋常じゃないほどの汗をかき、
個室で隠れるように息を整えている…ように見える。
…何かあったな。
「パクスと合流できなかったの?泉でみんな待ってるよ」
「は?何を言って…」
「そうだ!頼みがある」
そう言って俺をトイレに行かせようとはせず、奴は俺の首に何かをかけた。