「なに、笑ってんの?」
カナちゃんは楽しそうに笑いながら、私の頬をつつく。


「なんでもないっ」
なんだか今日の私はやっぱり変だ。

「教えてよ、ケチだなぁ」
そんな風に言いながら、私に背を向けて座りなおすカナちゃん。


うわ、背中可愛い……

何ソレカナちゃん、反則じゃない!?
可愛すぎるし……

いくら私でも、さすがにドキッとする。
それに、カナちゃんの襟足ってそんなに可愛かったっけ?

初めて、見るんだ。
なんだか、ギャップが……


いけないいけない。
何、考えてんだか………

「カナ…ちゃん?」
ツンツン、とカナちゃんの背中を触る。


「……マコ」


思っていたのと、全く違った反応。
なに、なんなの……?

そんなに切ない、悲しそうな声で呼ばないで………?


「ん……?」

悲しそうなカナちゃんの声に、私までなんだか悲しくなった。








「ううん。……何でもないっ」
そう言って振り返ったカナちゃんは、いつもみたいに笑っていた。

ただ、やっぱりそれはニセモノで。


やっぱりカナちゃん、何か隠してる。
私に、言えないことを言いたくて我慢してるのかもしれない。

きっと、そうに違いない。

私は一人で考えて、そう思うことにした。

「……カナちゃん、私、決めた」


私の真面目な声色に、カナちゃんの表情も固まった。


「なに、を?」

「……私、何も聞かないから。」

「…っ」
ビックリしたようなカナちゃん。

「……カナちゃんが話してくれるまで、待つから。


無理やり聞いたりしない。
だから、笑って?

笑えない理由が、あるのかも知れない。
でも、私は笑ってるカナちゃんが好き。
例え、それがニセモノの笑顔でも。
私には分かるから、ニセモノがどうかくらい。」


「………マコ…………」









「………ありがと」


小さな声で、カナちゃんは言った。

だけど、素直じゃない私は“ん?”って聞き返した。


そしたらカナちゃんは、“何でもない”って笑った。


それで、良いんだ。

カナちゃん、これで、いいよね?




ずるい私には、こんなことしか出来ないんだ。

カナちゃんが、いつか離れて行っちゃうんじゃないかって。


まだ、出会って2日目なのに不安で仕方ないんだ。

出会って2日目なのに、こんなにも怪しいカナちゃんが居なくちゃ生きていけない気がしたんだ。



ごめんね、カナちゃん。
どうかずるい私を許して……?








「……!!」


私、寝てた……?

気がつくと私は眠っていたみたいだった。
あれから私たちは、カナちゃんに勧められて“トランプ”をした。

カナちゃんは、意外にもトランプゲームに強くて……


ババ抜きはもちろん、スピードや七並べなど私の知らないトランプゲームも教えてくれた。


そして、気づいたら眠っていた。

ふと隣を見ると、カナちゃんも眠っていた。

「ふふっ」

カナちゃんの笑顔があまりにも可愛くて、思わず笑みがこぼれた。




なんか、やっぱり可愛い。
今日は2回もカナちゃんの寝顔を見た。

1日で2回も見れるなんて。
もしかしたらもう見れないかもしれない、と思った私はジッとカナちゃんを見つめた。


「……そんなに見つめられたら、困るんだけど?」

突然、カナちゃんが目を開けた。


「え……!?起きてたの!?」
私は驚きのあまり大きな声を出してしまった。


「起きてた…よ…?」

そ、そんなに可愛く言われたら…
ちょっとだけ、ドキリとした。


「うぅ……」

困った。非常に困った。
バレてしまっていたなんて……

「なに、俺に惚れた…?」
「な…っ!!//」

「じょーだんだよ。それより、お腹空いたなー」


じょ、冗談って………
分かりにくいにも程がある。

そんな風に思いながらも、時計をチラリと見た。






「うわ」
そんなに寝てたの!?と言うくらい時間が経っていて。

「今、何時?」
欠伸をしながら私に訪ねるカナちゃん。

「7…時。」
まさか。
私たちはどうやら6時間近く眠っていたみたい。

信じられない。
こんなんじゃ、夜眠れないかもしれない。

「……よし。ご飯作ろう。」
私は立ち上がり、背伸びをした。

そして、キッチンへと向かったのだった。







キッチンに着き、手を洗っていると後ろからスッと手が出てきた。

「…手伝うよ」

「カナちゃん…」
カナちゃんは、何故か私の後ろから手を回すように出して一緒に手を洗っている。

「何、作るの?」
手を洗い終わったカナちゃんが壁にかかっているタオルで手を拭きながら尋ねてきた。

「ん?カナちゃんの大好物、かな?」

私はわざと、イタズラっぽく言った。


「……俺、好きな物って作れないんだよね。」

まさかのカミングアウト。

コンビニとかファミレスでご飯すませてる時点で作れないのはなんとなくわかってたけどさ。

大丈夫か、カナちゃんの身体。

いや、コンビニ食とかで偏りまくってるであろうカナちゃんの身体は私がどうにかしてみせる。


何故かそこで意気込む私だった。






「…で、何すればいい?」

カナちゃんは気合いを入れたみたいで、どこから持って来たのか、エプロンまでしていた。

「じゃあ、ジャガイモ洗ってもらおうかな?」

「はーい」

それから、お互いに黙々と作業を続けた。

……つもりだった。

「よし、これでお味噌汁はOKで、ご飯ももうすぐ炊けるね。」

あ、肉じゃがのこと忘れてた。


「カナちゃん、洗い終わった?」
チラリと流し台にいるカナちゃんの手元を覗き込む。


「は!?」
「…はは、ははは…」

何、コレ。
「…何も進んでないじゃん!!」

思わず、つっこんじゃったよ。
ひ、ヒドい。

ここまで何も出来ないなんて……


カナちゃんの手元には、土まみれのジャガイモが3つ。

洗うだけも無理なんだ……




もしかして……
いや、もしかしなくても…
不器用だよね、うん。






「…す、すまん…」

落ち込んでる様子のカナちゃん。
う、シュンとしないで……!!

私が悪いことしたみたいじゃん。


「じゃ、じゃあカナちゃんはお味噌汁注ぐお茶碗と、ご飯よそうお茶碗を用意してくれるかな?」

「うん!!」


な、なんかコレじゃ私が年上って言うか……


苦笑いを浮かべながら、裾を捲った私はジャガイモを洗う。




これからは、お手伝い遠慮しよう。



私は強く思ったのだった。