「んー…恥ずかしながら、教師をやっております」

頬杖をついたまま、私を見つめ話すカナちゃん。


きょ、教師………?

意外にも程がある……!!!

「あ、信じてないでしょ」
怒ったようにプンプンとするカナちゃん。
「いや、信じてるけど……意外すぎて」

正直に話すと、カナちゃんは拍子抜けしたようだった。

「信じて、くれるんだ?」

どこか疑ったように首を傾げるカナちゃん。その仕草、なんかドキドキする。


「“信じるって言ったら信じるよ、私は”って、言ったよね。だから、信じてる」


カナちゃんに視線を合わすことが出来なかった私は必死にいいわけをした。


「そっか。なんかその言葉、いいな」


突然、どこか懐かしそうに遠くを見るカナちゃん。

「これは受け売り。」
お父さんからの、受け売り。

「そか…。なぁ、俺ちゃんと先生に見える?」

急に話を変えるカナちゃん。
ちゃんと先生に見えるかって……

「うーん。言われて見れば見えないこともないかな?って感じ。」


なんとも煮え切らない返事だ。
自分にガッカリ。





カナちゃんは、
「ま、新米だしな」
って笑った。

今、思ったけど……
カナちゃんって一体、何歳なの?


「カナちゃんは何歳なの?」
気になって、尋ねてみた。

すると、
「どうなんだろうな、俺は」
と、意味不明な返事。

それも、教えちゃダメなことなんだ…

カナちゃん、秘密が多すぎるよ……
私のことは、知ろうとするくせに。


なんだか、理不尽だよ。


「…じゃあ、中学校の先生?高校の先生?」

ダメもとでまた、聞いてみた。
ちょっとだけでも、1つだけでも、カナちゃんのことが知りたくて。


「……高校」


教えて、くれた………

「そーなんだ」
なんて、素っ気ない反応だけど心の中では大喜び。


そこに、
「お待たせしました。チーズハンバーグお2つです」

目の前に置かれた、チーズハンバーグ。



タイミング、良いんだか悪いんだか……







「んま~」
口いっぱいにハンバーグを詰め込んだカナちゃんは、幸せそうに笑った。

「カナちゃん、美味しいよ」
それ以上、話すことがなかった。


「食べたら、帰るか。」
「…ん。」




それから、お互いに沈黙だった。
本当は、聞きたいことがいっぱいある。


だけど、聞いちゃイケないんだ。
カナちゃんの顔が、これ以上踏み込むなって言ってる。










「「ごちそうさま」」



食べ終わる時間が、同じだった。
チラリとカナちゃんを見ると、カナちゃんは私をジッと見ていた。


「え……っ」

思わず、戸惑いの声が漏れる。



「……マコってさ、可愛いね」

突然、カナちゃんがおかしなことを言い出した。


「は……?」

「いや、普通に可愛いよねマコって」



カナちゃん、熱でもあるの……!?
なんか、突然人が変わったような……


ちょっとびっくりしながらも、カナちゃんをもう一度見た。



「さ、出ようか」

何事もなかったかのように立ち上がるカナちゃん。



やっぱり、カナちゃんは分からないよ…







それから帰宅し、中途半端な時間だったから昼食は食べないことにした。


「カナちゃん、ヒマだよ」

本当と言えば本当だし、ウソと言えばウソになる。

ただ、構って欲しかっただけ。

「そーだなぁ…」
上を向いて考えているカナちゃん。

「普段は、何してるの?」
何気なく聞いた言葉に、カナちゃんはピクリと肩を揺らした。


「……学校に。」
あ、そっか。
高校の先生なんだよね……?

そっか。
先生に休みの日なんてないようなものだもんね。


ん………?


“先生に休みの日なんて”………?


今日は確か土曜日。
学校は休みでも、先生って学校行かなきゃいけないんじゃないの…?


疑問がどんどん膨らんでいく。



聞いても、いいかな………?








「カナちゃん…今日って土曜日。だよね…?」

「え?うん、土曜日だけど……」
不思議そうな顔をするカナちゃん。


「学校、行かなくていいの?」


しばらくの沈黙があったが、カナちゃんは口を開いた。

「…ワケあってしばらく学校休み。」


笑いながら話すカナちゃん。
だけどやっぱりその瞳は悲しそうだった。

「……そっか」


それしか、言えなかった。
私には、言えないよ。


カナちゃんのこと、本当はもっと知りたい。だけど、知っちゃいけない。


色んな気持ちが、押し寄せる。





しばらくの沈黙。

私はカナちゃんの腰掛けているソファーで、カナちゃんの隣に座っている。

こんなにも近くにいるのに、近くに感じない。


それは多分、私のカナちゃんの心の距離なんだと思う。


だから、せめて身体の距離は……

私は少しだけカナちゃんに近づいた。
気づかれませんように。
そう思いながら。


だけど、やっぱりカナちゃんはすごい。

「なに…寂しいの?」

なんでもお見通しみたい。
ちょっとだけ恥ずかしかったけど、コクンと頷いた。


「……マコ。」


カナちゃんはそっと私を肩口に抱き寄せてくれた。


知らない、人なのに。
昨日、出会ったばっかりなのに。

こんなにも安心するのはなんでかな?


私が、変なのかな。

普通、こんなに怪しい人に安心なんてしないもんね。


私が変なんだ。
だったら、だったらそれでもいい。



いいかも知れない。





何故か、そんな風に思ってしまった。

突然、
「…ゲームしよっか。」
と、耳元でカナちゃんが囁いた。


「…ゲーム?」


この家にそんな物があるとは思えない。
頭の中に疑問が浮かび、首を傾げた。

「ゲームなんてあるのか…って?」

ソファーに腰掛けたカナちゃんが、背もたれに片腕をついて拳をこめかみの辺りに当てていた。

……私を見つめながら。


…恥ずかしい。
そんなに見つめられたら、穴が開きそう。

私は真っ赤になりながらも、コクンと頷いてみせた。


「はは、正直でよろしい。……まぁ、マコが思ってるようなゲームはないかな」

カナちゃんはなんだか満足そうに笑った。




「………?」


それからカナちゃんは立ち上がり、私の部屋の向かい側にあるカナちゃんの部屋であろう部屋に消えた。


「……」

急に静まり返った室内。
カナちゃん、笑うようになったなぁ。

ニセモノの笑いもあるけど、ちゃんと笑ってるなって分かる時もある。


もしかして、少しは心を開いてくれたのかな…?


そんな妄想に、ちょっとだけ嬉しくなって思わずニヤケてしまった。


「なーにニヤケてんの。」
「……っ//」

突然、カナちゃんに右頬をツンツンとされた。


ニヤケてんの、バレた……!?

「なんか良いこと、あった?」
私が笑っていたことが嬉しかったのか、カナちゃんはニコニコと笑ったいる。


あ、これ、本物だ。

カナちゃん今、本当の笑いだ。


そんな、思い込みかもしれない事実に、また私の表情は和らいだ。