やっぱりカナちゃんは優しい。
私なんかより、ずっと。
「嫌いな食べ物とかある?」
突然、カナちゃんが立ち止まり私に尋ねる。
嫌いな食べ物……
「嫌い…って言うか、オムライスは“食べない”かな。」
気づくかな、バレるかな……
そんな、些細な私の一言に、カナちゃんは目を見開く。
「“あれしか食べない”っていう、オムライスがあるんだ……?」
ほらね、やっぱりバレた。
カナちゃんは何者なんだろうね。
「…うん、そ。私はお父さんが作った不器用な、下手くそなオムライスしか食べないの。」
そう。
大好きな、お父さんのオムライス。
ケチャップが少なくて、卵なんかグチャグチャのオムライス。
私はあのオムライスが、大好きだった。
「……だと思った。」
カナちゃんが小さな声で何か言った。
「え…?」
私はよく聞こえなかったから、カナちゃんを見つめた。
だけど……
「なんでもないよ!さ、あそこのファミレス行こ。ちょっと早めの昼飯にしよ」
朝ご飯を食べていない私のお腹はすでに限界だった。
それから、ストアから5分もかからない場所にあったファミレスに入った。
この辺って、田舎だけど意外にお店多いよね……
ちょっとだけ疑問も抱きながらも、空腹に耐えられなかった私は席へと急いだ。
「何にする?」
メニューを近づけながら尋ねるカナちゃん。
「……チーズ…ハンバーグ」
恥ずかしかった。
カナちゃんと、同じものが好きだから。
「なんだ、マコもハンバーグ好きなんだ」
そう言いながら呼び出しボタンを押すカナちゃん。
カナちゃんは、何にしたのかな?
「ご注文お決まりでしょうか」
愛想の良さそうな、若い男子が近寄って来た。
「チーズハンバーグ2つで。あと、ドリンクバー」
あ、カナちゃんもチーズハンバーグ。
なんかちょっと、ほんのちょっとだけ、嬉しいな。
「かしこまりました。チーズハンバーグをお2つとドリンクバーですね。………」
それからカナちゃんは店員さんと数回会話をして、注文を終えた。
「カナちゃんはさ……」
そこまで言い掛けて、やめた。
「なに…?そこで止めないでよ、気になるじゃん。」
向かい側に座るカナちゃんは頬杖をついて私を見つめる。
う………
言っても、いいのかな。
内心ちょっと不安。
もしかしたら、聞いちゃいけないことかも知れないし………
なんて、1人で考えていると、
「気、使わなくていいから……言って?」
やっぱりカナちゃんはすごい。
私を見透かしてる。
なんでも、バレちゃうね。
「あの、さ……カナちゃんは、さ……」
「うん」
戸惑う私に対してカナちゃんは冷静なまま相槌をうつ。
こういうトコ、本当に大人だなぁ。
「カナちゃんのお仕事って…何…?」
恐る恐る聞いた私。
黙り込んでしまったカナちゃん。
やっぱり、聞いちゃだめだった……?
「んー…恥ずかしながら、教師をやっております」
頬杖をついたまま、私を見つめ話すカナちゃん。
きょ、教師………?
意外にも程がある……!!!
「あ、信じてないでしょ」
怒ったようにプンプンとするカナちゃん。
「いや、信じてるけど……意外すぎて」
正直に話すと、カナちゃんは拍子抜けしたようだった。
「信じて、くれるんだ?」
どこか疑ったように首を傾げるカナちゃん。その仕草、なんかドキドキする。
「“信じるって言ったら信じるよ、私は”って、言ったよね。だから、信じてる」
カナちゃんに視線を合わすことが出来なかった私は必死にいいわけをした。
「そっか。なんかその言葉、いいな」
突然、どこか懐かしそうに遠くを見るカナちゃん。
「これは受け売り。」
お父さんからの、受け売り。
「そか…。なぁ、俺ちゃんと先生に見える?」
急に話を変えるカナちゃん。
ちゃんと先生に見えるかって……
「うーん。言われて見れば見えないこともないかな?って感じ。」
なんとも煮え切らない返事だ。
自分にガッカリ。
カナちゃんは、
「ま、新米だしな」
って笑った。
今、思ったけど……
カナちゃんって一体、何歳なの?
「カナちゃんは何歳なの?」
気になって、尋ねてみた。
すると、
「どうなんだろうな、俺は」
と、意味不明な返事。
それも、教えちゃダメなことなんだ…
カナちゃん、秘密が多すぎるよ……
私のことは、知ろうとするくせに。
なんだか、理不尽だよ。
「…じゃあ、中学校の先生?高校の先生?」
ダメもとでまた、聞いてみた。
ちょっとだけでも、1つだけでも、カナちゃんのことが知りたくて。
「……高校」
教えて、くれた………
「そーなんだ」
なんて、素っ気ない反応だけど心の中では大喜び。
そこに、
「お待たせしました。チーズハンバーグお2つです」
目の前に置かれた、チーズハンバーグ。
タイミング、良いんだか悪いんだか……
「んま~」
口いっぱいにハンバーグを詰め込んだカナちゃんは、幸せそうに笑った。
「カナちゃん、美味しいよ」
それ以上、話すことがなかった。
「食べたら、帰るか。」
「…ん。」
それから、お互いに沈黙だった。
本当は、聞きたいことがいっぱいある。
だけど、聞いちゃイケないんだ。
カナちゃんの顔が、これ以上踏み込むなって言ってる。
「「ごちそうさま」」
食べ終わる時間が、同じだった。
チラリとカナちゃんを見ると、カナちゃんは私をジッと見ていた。
「え……っ」
思わず、戸惑いの声が漏れる。
「……マコってさ、可愛いね」
突然、カナちゃんがおかしなことを言い出した。
「は……?」
「いや、普通に可愛いよねマコって」
カナちゃん、熱でもあるの……!?
なんか、突然人が変わったような……
ちょっとびっくりしながらも、カナちゃんをもう一度見た。
「さ、出ようか」
何事もなかったかのように立ち上がるカナちゃん。
やっぱり、カナちゃんは分からないよ…
それから帰宅し、中途半端な時間だったから昼食は食べないことにした。
「カナちゃん、ヒマだよ」
本当と言えば本当だし、ウソと言えばウソになる。
ただ、構って欲しかっただけ。
「そーだなぁ…」
上を向いて考えているカナちゃん。
「普段は、何してるの?」
何気なく聞いた言葉に、カナちゃんはピクリと肩を揺らした。
「……学校に。」
あ、そっか。
高校の先生なんだよね……?
そっか。
先生に休みの日なんてないようなものだもんね。
ん………?
“先生に休みの日なんて”………?
今日は確か土曜日。
学校は休みでも、先生って学校行かなきゃいけないんじゃないの…?
疑問がどんどん膨らんでいく。
聞いても、いいかな………?