「……」
暖かい風が頭に吹き付ける。
気持ちいい……
何でだろ、カナちゃんは髪を乾かすのが上手だ。
眠たい……
だんだんと睡魔が襲ってくる。
「終わったよ……って、マコ?」
ヤバい。
また、身体が言うこと聞かない……
目が、あけられない……
間近にカナちゃんの顔がある。
うわ~……
カッコいいなぁ、カナちゃん。
雨に濡れてるカナちゃんも、
スーツ着て、髪を後ろに流してるカナちゃんも、
お風呂上がりで火照ったカナちゃんも。
カッコよすぎる。
「しょうがないなぁ……」
カナちゃんがふぅ、と息を吐くのが分かる。
その瞬間、フワッと身体が宙に浮く。
え………?
お姫さま抱っこ……?!
ヤダ、恥ずかしい…………
だけど、眠すぎて何も言えない。
背中に何かが当たり、それからそれは身体全体へと変わる。
ベッドにおろされたんだ。
カナちゃんが私に布団をかけてくれる。
ほら、カナちゃん、優しい。
“おやすみ”
小さな声でカナちゃんはそう呟いた。
私の頭を優しく撫でながら。
すると、カナちゃんが立ち上がったような感じがした。
行っちゃう……!!
そう思った私は咄嗟にカナちゃんの服の袖を掴む。
「…しょうがないなぁ…」
そう言ってカナちゃんは私の手を握り、ベッドに腰掛けた。
「…やっぱ、寂しいよな…」
悲しそうに呟くカナちゃん。
カナちゃん、私、聞こえてるよ。
本当は、起きてるよ。
だけど、少しだけこうさせて。
カナちゃんがどんな思いかなんて分からない。
だけど、離れたくない。
……なんでだろう。
今日、出会ったばっかりなのにね。
気づけば私は眠りについていたみたい。
目が醒めたとき、近くにあった時計を見ると“8時”を指していた。
起きなきゃ。
身体を起こそうとする。
すると、右手がやけに暖かい。
ふと右手に視線を送ると、そこにはカナちゃんがいた。
スヤスヤと寝息をたてながら眠るカナちゃん。
一瞬、ドキリとした。
あれからずっと傍にいてくれたのだろうか。
なんだか申し訳のない気分になった。
って言うかカナちゃんって……
まつげ、長い。
肌とか超キレイ。
焦げた茶色のような色の髪はサラサラに見える。
なんか、色っぽい。
眠るカナちゃんはなんだか悲しそうな顔をしていた。
嫌な夢でも見ているのだろうか。
額にはじんわりと汗が滲んでいる。
「カナちゃん……!!」
私は思わずカナちゃんに声をかけた。
なんだか、見ていられなかった。
早く、悪夢から逃げて欲しかった。
「ん……マコ?」
目をこすりながら眠たそうに身体を起こすカナちゃん。
「…おはよ」
カナちゃんを見つめながら言うと、
「おはようマコ。」
って、カナちゃんは笑った。
「……朝ご飯、何がいい?」
「あー…俺、朝はご飯派。味噌汁とか久しぶりに飲みたいかな」
“久しぶりに”
そんな言葉が頭に引っかかる。
「いつも朝ご飯、食べてないの?」
私が問いかけると“しまった”って顔をしたカナちゃん。
キッとカナちゃんを見据えると、
「う…はい…。」
観念したように頷くカナちゃん。
「じゃあ、これからは毎日ちゃんと作るから。ちゃんと食べてね?」
「…うん。ありがとな、マコ。」
優しく笑うカナちゃん。
“朝ご飯ってのはな、1日を過ごすのに絶対必要なエネルギーなんだ。つべこべ言わずにちょっとでも良いから食べろ”
カナちゃんを見てると、お父さんの言葉を思い出した。
私も朝ご飯は食べない派だったんだけどね。
キッチンに向かい、冷蔵庫を開けると水、水、水……
「カナちゃん、何も入ってないんだけど………」
顔を洗って来たカナちゃんに言うと、
「…俺、料理とか出来ないからさ。」
って言われた。
「…カナちゃん、お買い物に連れて行って。」
多分、カナちゃんは外食ばかりだ。
そんなんじゃ栄養は偏るし、身体に悪い。
それに、ご飯は家で作る方が美味しいに決まってる。
……なんて、最近コンビニ食ばかりの私が言えたセリフじゃないけど。
そう思いながらもカナちゃんを見ると、
「わかった。じゃあ、とりあえずスーパーに買い物しに行こう。」
「わかった。」
「俺、着替えてくるからマコも着替えるなら着替えて来てね」
そう言って私の部屋の向かいにある部屋に入るカナちゃん。
もしかして、カナちゃんの部屋……?
不思議に思いながらも、私も着替えるために部屋に入った。
ガチャン。
昨日、キャリーバッグから洋服を出すのを忘れていた私はバッグから洋服などの衣類を取り出し、クローゼットにしまう。
「…よし。」
片付け終わったころ、部屋の扉がノックされた。
“コンコン”
「………はい。」
なんて無愛想な返事だろうか。
ちょっとだけ後悔した。
「着替え、すんだ?」
扉の向こうから話しかけてくるカナちゃん。
あ……
お買い物、忘れてた……
「…あ…あと10分待って!!」
私は焦ってしまって、大きな声を出してしまった。
「ふっ。ゆっくりでいいよ、別に」
扉の向こうから、そんな声が聞こえた。
ば、バレた……
って言うか、笑われた。
なんか、悔しい……
そう思いながらも、クローゼットにしまったばかりの服を取り出して着替えた。
ガチャン。
部屋からでるとすぐに視界に入るカナちゃん。
なんだかちょっと、暖かい。
普通の人には分からないかも知れないけど、家の中に人がいることがこんなにも暖かい。
見渡せば誰かが視界に入る安心感。
こんなにも些細なことだけど、私には些細じゃない。
「あ…終わった?」
ソファーに座っているカナちゃんが私をみる。
「ん……」
無愛想な返事しか出来ない私。
あーあ。
さっきまでは普通にはなせてたのに。
なんとなくガッカリする。
「なんか、意外な私服だな」
玄関で座り、先に靴を履きながら私を見上げるカナちゃん。
「い、意外…?」
どこか変なところでも……?
私は自分の服装を確認する。
別に、変じゃないと思うけど………
カナちゃんをチラリと見ると、カナちゃんは口角を少しあげた。
「可愛いってこと。」
イタズラっぽく言うカナちゃんに、ちょっとだけドキっとしたのは秘密。
「もっとクールな感じかと思った。」
付け足すように呟いたカナちゃん。
それからそそくさとハイカットスニーカーを履いて玄関扉に手をかけるカナちゃん。
は、はやっ……!!
私は焦って靴を履こうとする。
……だけど。
「………」
私が持って来たのはこの靴。
普段履くなんてもってのほかな靴。
私が立ち尽くしてるのに気づいたカナちゃんは、不思議そうに足元をみる。
「あ……ローファーだ。」
そう。
ローファーだ。
「さすがにそれじゃ、出かけらんねーな」
なんだか楽しそうに笑うカナちゃん。
だけどやっぱり笑ってない。
目が、笑ってない。
端からみたら楽しそうに笑ってる。
だけど、私には分かるよ。
なんでだろうね。
ある意味、他人だからかも知れない。
「これ、貸すから。あ、汚くないからね?」
そう言って玄関にあった戸棚をあけ、小さめのスニーカーを出すカナちゃん。
それでも私にはブカブカだった。
「買い物って、どこらへんまで?車で行くの?」
玄関の鍵をしめているカナちゃんに尋ねる。
「ん?あぁ。そこだよ、そこ。」
カナちゃんは私の向こうを指差す。
指差した先を見るために振り返る。
すると、視界に小さなストアのようなものがうつる。
あそこで買うんだ。
結構近いし、カナちゃんちの冷蔵庫に水しかないのもちょっとだけ納得。