「んじゃ、行って来ます。」
玄関先でスーツ姿のカナちゃんが靴を履いている。
わかった。
私たちが出会ったあの日、カナちゃんはスーツを着てたっけ。
学校、スーツで行ってるんだ。
「あれ、マコ、ちゅーは?」
は……?
「“行ってらっしゃい”の、ちゅー」
は…………?!
なんか、キャラ変わってない!!?
だいたい何?!
“行ってらっしゃいのちゅー”!!?
カナちゃんの思ってもいなかった言動に、戸惑い、テンパる私。
「何照れてんの?冗談だよー」
そう言ってイジワルに笑ってドアを開けるカナちゃん。
「い、イジワル…///」
「はいはい、行って来ます」
「……行ってらっしゃい。」
なによ、もう……
カナちゃんがいなくなった途端、静まり返った室内。
そこで気づいた。
……久しぶりの“独り”だ。
ドクン、ドクン、ドクン…
あ、あれ…………?
ドクン、ドクン、ドクン…
なん、で……?
胸が、締め付けられるような、感じ。
苦しくて、冷たい。
頭の先から血がどんどんなくなっていくような感覚に襲われる。
どうして…………?
“独り”には、慣れてたはずなのに………
「…………っ」
気づけば目からは暖かい雫が零れ落ちていた。
「……う……っ」
泣き止め、自分。
何を、こんなことで負けてるの……!!
今まで、大丈夫だったじゃん。
耐えて来たじゃん………!!
何で……?
たった3日間、カナちゃんと過ごしただけじゃない……。
ただ、それだけなのに。
それだけなのに、私はこんなにも変わってしまった。
カナちゃんなしじゃ、ダメみたいに。
どうしたらいい?
こんな、ダメになっちゃった私は。
あと3日で、カナちゃんとは一緒にいられなくなっちゃうんだよ?
こんなんじゃ、私、ダメだ……
どうにかして、慣れなきゃ……
パチン。
私は一度、自分の両頬を叩いた。
「よしっ」
大丈夫。大丈夫、大丈夫。
私なら、大丈夫。
私に出来ること。
それは、これ以上カナちゃんを好きにならないようにすること。
心に強く決め、私は前を向いた。
自分を、信じる。