「毛布、かけてくれたのマコだろ?」
眠たそうにそう言うカナちゃんは、嬉しそう。
もしかして、カナちゃんが言ってる“良い事”って……?
「すんげぇ、嬉しかった。」
きゅん。
「…ありがとな、マコ。」
きゅん。きゅん。
何よ、こんなの、卑怯だよ……
そんなカッコいい顔で、甘い声で、上目遣いで……
そんなの、ズルいよ……
せっかく、諦めようとしてたのに。
あと、3日しか一緒にいられないから、諦めようと思ってたのに。
無理じゃん。
諦めるなんて、出来っこないよ。
………イジワル。
「…ご飯、食べよ?」
私がそう言うと、カナちゃんは“適わねえ”って笑った。
約束だけは、守り続けるから。
だから、せめてあと3日は、カナちゃんを好きでいさせてね。
「んまい」
ニコッと笑うカナちゃん。
“んまい”
その言葉は、笑顔は、すごく嬉しい。
だけど、笑ってない。
あと、3日しか一緒にいられないから?
私と離れるの、少しは寂しいと思ってくれてるの?
なんて。
自惚れてみたかっただけ。
そんな事、有り得ないってわかってる。
だから、せめて想像の世界だけ、ね。
「……マコ。」
「ん?」
「約束、破ることになるかも知んないけど……これから、マコに少しずつ話をしていこうと思ってる。」
話……?
「ま、1日1つってとこかな。」
悲しそうに眉を八の字にするカナちゃん。
「なんの、話…?」
「まぁ、マコが聞きたいこと、かな。」
私が、聞きたいこと……?
そんなの、たくさんある。
3日分じゃ、足りないよ。
カナちゃんは、私が残りの日数を知ってること、知らないんだよね。
「今日は、そうだなぁ。午前中出掛けないといけないから午後にでも話そう。」
「え?カナちゃん、出かけるの?」
そんなの、聞いてない。
「あぁ、学校にね。今日は平日だし、ってか職員会議に出なきゃなんねーの」
あ、そっか。
カナちゃん、先生だったね。
だけど、しばらく休みをとったって…
職員会議は、強制参加なのかな?
「ん、そろそろ準備しなきゃ」
その一言にチラッと時計を確認すると、時刻は午前7時。
もう、そんな時間……。
カナちゃんといると、時間が過ぎるのがあっという間。
「んじゃ、行って来ます。」
玄関先でスーツ姿のカナちゃんが靴を履いている。
わかった。
私たちが出会ったあの日、カナちゃんはスーツを着てたっけ。
学校、スーツで行ってるんだ。
「あれ、マコ、ちゅーは?」
は……?
「“行ってらっしゃい”の、ちゅー」
は…………?!
なんか、キャラ変わってない!!?
だいたい何?!
“行ってらっしゃいのちゅー”!!?
カナちゃんの思ってもいなかった言動に、戸惑い、テンパる私。
「何照れてんの?冗談だよー」
そう言ってイジワルに笑ってドアを開けるカナちゃん。
「い、イジワル…///」
「はいはい、行って来ます」
「……行ってらっしゃい。」
なによ、もう……
カナちゃんがいなくなった途端、静まり返った室内。
そこで気づいた。
……久しぶりの“独り”だ。
ドクン、ドクン、ドクン…
あ、あれ…………?
ドクン、ドクン、ドクン…
なん、で……?
胸が、締め付けられるような、感じ。
苦しくて、冷たい。
頭の先から血がどんどんなくなっていくような感覚に襲われる。
どうして…………?
“独り”には、慣れてたはずなのに………
「…………っ」
気づけば目からは暖かい雫が零れ落ちていた。
「……う……っ」
泣き止め、自分。
何を、こんなことで負けてるの……!!
今まで、大丈夫だったじゃん。
耐えて来たじゃん………!!
何で……?
たった3日間、カナちゃんと過ごしただけじゃない……。
ただ、それだけなのに。
それだけなのに、私はこんなにも変わってしまった。
カナちゃんなしじゃ、ダメみたいに。
どうしたらいい?
こんな、ダメになっちゃった私は。
あと3日で、カナちゃんとは一緒にいられなくなっちゃうんだよ?
こんなんじゃ、私、ダメだ……
どうにかして、慣れなきゃ……
パチン。
私は一度、自分の両頬を叩いた。
「よしっ」
大丈夫。大丈夫、大丈夫。
私なら、大丈夫。
私に出来ること。
それは、これ以上カナちゃんを好きにならないようにすること。
心に強く決め、私は前を向いた。
自分を、信じる。