ザー………


教室の窓から外を眺める。

天気予報、当たりだった。
今日の予報は《曇りのち雨》だった。

傘、持って来て良かった。
なんてボンヤリ考えながらジッと外を見る。

雨でびしょびしょの運動場。
窓ガラスには自分の姿が映っている。


窓際の席に座る私。
授業中にも関わらず頬杖をついて外を眺めている。


誰も怒ったりしない。

誰も私を見ないから。ううん、見ようとしないから。


この学校に友達なんていない。

私はいつも1人ぼっち。

本当は友達が欲しいし、彼氏だって欲しい。


欲を言えば……………







《家族》が欲しい。―――――――











唯一の家族だったお父さんは数年前に他界した。

それから私は一人暮らし。

国からお金をもらってるから、何も困ることなんてない。


それに、一人にはもう慣れた。


家族もいない、友達もいない。

たった一人の寂しい世界。
暗い世界に私は一人。




考えごとをしていると、あっと言う間に授業は終わり、ホームルームまでもが終わっていた。


「ばぃばーい」
「うん、また明日ね~」

「傘忘れちゃったんだよね~……」
「途中まで入れてあげるよ?」
「やった、ラッキー」


そんなクラスメートたちの声が聞こえる中、私は一人で教室をあとにする。



いつもと変わらない毎日。
ただ、いつもと少し違うのが、今日は雨だと言うこと。


雨はわりかし嫌いじゃない。


なんだか自分に似てるから。







学校をあとにして、いつもの道を歩く。

学校から私の住んでいるアパートまでは徒歩で約20分。

普段は何とも思わないこの道のりも、雨が降ると遠く感じる。


そして、アパートが見えた頃には雨が酷くなっていた。


ふと、アパートを見ると人影が見えた。


……誰だろう。
雨宿りでもしてるのだろうか。

そう気にも止めずに私は歩みを進める。



その人は男の人だった。

目の前を通り過ぎようとしたとき、不意に目があった。


傘もささずに立ち尽くすその人は、とても綺麗な目をしていた。


綺麗な目に吸い込まれてしまいそうで、目を離すことが出来なかった。



私は何を考えたのか、見ず知らずの男の人に自分の傘を差し出した。


「……使って」

ぶっきらぼうな言い方しか出来なかったけど、男の人はもう何時間もそこに居たようだったから、風邪を引くんじゃないかと心配になった。







傘を差し出す私に対して男の人は、
「名前は……?」

と、尋ねて来た。


怪しすぎる。
すんなり名前を教えていいものか、と悩んだ末に、私はこう言った。


「……マコ」

私の本当の名前は麻琴。
小さい時はみんなに“マコ”と呼ばれていた。


だから、嘘をついたワケではない。


「マコ…か。ありがとう…」
そう言って不器用に笑う男の人。

笑うの、苦手なのかな……?

そんな風に思った。


「あなたは……?」

私が彼を傘の中に入れながら尋ねると、

「……“カナ”」
と、彼は答えた。


カナ………
何とも女の子らしい名前だ。


「俺はマコを…迎えに来たんだ…」



突然、おかしなことを言う……カナ。

今日、初めて会ったばかりの人に“迎えに来た”とか言われても………

だけど、その瞳は嘘をついてるようには見えなかった。






「どこかで話が出来ないかな…?」


私を見つめる綺麗なグリーンの瞳。
ハーフなのかな。
不思議に思いながらも、こんな怪しすぎる人について行っていいのか悩んだ。


「上がって……」


またまた私は何を言ってるんだろう。

こんなに怪しい人を家にあげるなんて。

だけど、この人とどこかのお店に入ったりする方が考えられなかった。


「……分かった」
カナ…さんも驚いているようだった。


なんだかこの人は、悪い人じゃない気がする。


まぁ、気がするだけだけど。


そんな風に思いながらもカナさんを家に迎え入れた。








コトン。
カナさんの座るテーブルの前に暖かいコーヒーをおいた。


「……ありがと」

そう言ってコーヒーを飲むカナさん。

なんか、“カナさん”ってのも抵抗がある。
まぁ、どうせもう関わらないんだし関係ないか。

そう思い、私はカナさんに単刀直入に聞いた。

「……あの、話って?」


「…あぁ。マコ、俺の家においで…」

は……?

「…怪しいのは充分、分かってるんだ。だけど、信じて欲しい」


カナさんにまっすぐな瞳に見つめられると、何だか断れない。

「…でも、なんで……?」

そうよ、なんで私なの……?
女子高生だったらそこらにウヨウヨいるじゃない。

「今は何も言えない。…だけど…信じて欲しい。」


って言うか、私の名前知らないのに住所を知ってるなんておかしい。


こんなに怪しい男の人、信じていいワケがないのに……


心が、言うことを聞かない……



「…信じる…」