偏差値五十九は決して高くはない。まだまだ伸ばしていかないといけない数字だ。
ソーリは勉強というものはまったくしていないが、中学時代から新聞とニュースは毎日欠かさずにチェックしていたのだそうだ。
「やるやん」
 僕はソーリを少し見直した。

 僕とソーリはちょくちょく授業を抜け出した。別に打ち合わせをしていたわけではないが抜け出したあとは決まって屋上に行くので一緒になることが度々あった。
頭は悪いが現代社会なら何でも分かる、そんなキャラクターで表面的にはクラスに溶け込んでいるように見えた。しかしソーリは陰気だ。心に闇がある。

「いじめが原因で転校してきてん」
ソーリが在籍していた前の学校はいじめがひどかった。クラスの誰か一人に的を絞り、全体でいじめた。その当時ソーリはいじめられてはいなかったが、いじられている男子生徒の大介をかばった。「もう辞めろ。大介を何だと思っている」と叫んだ。
そんな正義感と勇気があったのか、今のソーリから感じとることができない、僕は思った。

 その翌日からいじめの標的は大介からソーリに変わった。
「お前が標的にならないと大介をまたいじめる」
 そんな理屈で始まったいじめ。〝死ね〝と書き殴った手紙が毎日のように机に入っていた。ノートで叩かれる。「カッコつけるからこうなる」「偽善者ぶるな」と罵られる。靴は捨てられる。
 おかしい、何かいけないことをしたのだろうか、むしろ正しいことしたはずなのに、何故こんな目に遭わなければならない。分からない……。ソーリは四六時中そう自問自答していた。
 いじめられる側と違って、いじめる側は大して何も考えていない。ソーリは悩んだ。いじめを訴えれば事態が悪化する可能性があるかもしれない、もっとひどい仕打ちを受けるかもしれない。いや、また大介がいじめられるのかもしれない。