両親が別居状態で僕はどちらに付くのか迫られていた。十七歳の高校
二年生には決断しがたいことであった。結局は母方の祖母の家で取りあえずは落ち着くことになった。
母は後先のことを考えない人だった。母は専業主婦であるので収入はない。長く祖母の家に居候になるのは経済的に厳しい。僕はどうするのだろう、と不安な気持ちでいっぱいだった。
 今から考えれば、母も決断力に欠ける意気地なしだったのだ。離婚するでもなく別居という曖昧な行動によって父がどう出るかを見るつもりなのだ。それまで築いてきた家庭を捨てる。一番の加害者は母なのかもしれない。
僕は精神的に病んでいた。鏡を覗き込む。もともとやせ気味なうえに、体重はどんどん減った。死神のような顔だ。勉強にも身が入らない。成績は良い方ではあったが、一気に下がり、来年は上位クラスのA組にはいられないだろう。
 静かに一人、陰鬱な気持ちになり、桑田佳祐の「東京」を聴いて一日を過ごしていた。

 父よ母よ虚しい人生よ 雨よこのままどうか泣かせて

 この歌詞だ、この歌詞が今の僕の気持ちを表してくれている。
なんて虚しいのだ。何故冷たい雨に打たれる。冷雨のあとに何が待っているというのだ。 いっそのこと明日世界が滅亡してもくれないか。そんな境地にまで達していた。