オイルの匂いが、鼻先を掠める。


幼い頃から慣れ親しんだ、独特の香り。


苦手だと思う人は多いのかもしれないけど、あたしは嫌いじゃない。


「雪緒に何か言われたか?」


黙ったままのあたしに、お兄ちゃんが優しく微笑む。


「それとも……不安な事があり過ぎて、どうすればいいのかわからないのか?」


続けて零された問いに、また涙が零れ落ちる。


「ねぇ、お兄ちゃん……」


「ん?」


「雪が溶けない方法って……あるのかな……」


あたしは質問には答えずに、小さく小さく呟いた。