「…あ、さい…こう…た?」


「そう。朝井浩太」


なんだこの子。
俺の名前復唱して、なんなんだろうか?


彼女はただ突っ立ったまま、俺をじっと見ている。


…あれ?
もしかして、知り合いだったか?


こう暗くては、顔がよく見えない。


俺は2、3歩詰め寄り顔を間近で眺めた。



視線が絡み合う。



…その目には、見覚えがあった。


人を見据えるような目。
だけどどこか、戸惑っているような瞳。


「………ひ……め…?」


妃芽―


その名をいつぶりに口にしただろう。


いつしか口に出す事がなくなったその名前。


昔は当たり前のように、口にしていた。