暗い夜道を2人歩く。


俺が手を引いてるから、彼女は後ろから追う形だ。



「ちょっと待ってくださいっ!」


不意にふりほどかれた手。


俺は面倒に思いながらも後ろを振り返った。


「…どうしたの〜?」


真っ暗な道。
俺たちを照らすものは月明かりと、今にも切れそうな街頭だけ。


暑い真夏の夜は、俺の余裕を奪っていく。



「…あなた誰ですか?」


吐き出された言葉は、おおよそ彼女から出たものとは思えない程に低かった。


さっきまでの、おどおどとした態度はもうなくて、毅然と俺の前に立ちはだかっている。


睨まれてるのか?俺…


月をバックに立つ彼女の顔は暗くて、よくわからない。


「……朝井浩太」


湿った風に乗せて自分の名前を吐き出した。