「あの人は……母は、とても哀れな人でした。アナタに愛されたいと、どうしたらアナタに愛されるのかと……ずっとずっと、それだけを繰り返して、そして静かに……壊れていった。それを俺は誰よりも傍で見て、聞いて、触れて……それから、怖くなった」
その俺の言葉に彼は悲しそうに表情を曇らせ、しかし俺から視線を逸らす事はしないまま、ただ俺の言葉を待ち続ける。
「だって俺には……アナタの血が流れている。それがどうしようもなく、俺には怖かったんです。成長すればするほどに、見た目も、声も、話し方も、仕草さえも……自分でも分かってしまう程に、俺は……アナタに似ていた」
そう言って困った様に笑って見せる。
「嫌いで憎くて軽蔑しているアナタに、俺はどんどん似て行くのが分かった。いつか俺もアナタのような人間になってしまうのかって……そう考えたら怖くて、辛くて、吐き気がするくらい気分が悪くなった。でも……途中で分かった事があるんです」
そこまで言って口を噤むと、彼が緊張した様に微かに息を呑んだのが分かった。