茫然と彼女を見つめたまま、どれだけの時間が経ったのだろうか。

治まっていた筈のノラの涙が、彼女の白い頬を音も無く伝い落ちる。

ポロポロとまるで宝石の様な悲しい雫が彼女の頬を伝い、それはきつく握り締められたままの彼女の左手へとポタポタと落ちて行く。

「……ノラ」

小さく震える声で彼女の名を呼び、そして次の瞬間、ギュッと彼女を抱き締めた。

ノラは少し驚いた様に氷の様に冷たい体を強張らせたが、抵抗する事はしなかった。

「……俺じゃ……ダメか」

その俺の震える呟きに、ノラは何も答えない。

「俺じゃダメか……ノラ」

ただ俺の腕の中で体を震わせる彼女を強く抱き締めたまま、同じ言葉を繰り返す。

「……あ……きら」

ノラの唇が小さく震え、彼女の声が俺の名を呼んだ。

その愛しい声に胸が締め付けられる様に苦しくなり、それと共に言い表せない感情が沸き上がる。