「……止めて下さい」
「え?」
「止めて下さい!!」
その僕の叫びに、運転手の男が勢いよくブレーキを踏んだ。
「お、おい……急にどうした……」
「ごめん。ここで降ろしてもらってもいいかな」
困惑する少年の言葉を遮りそれだけ言うと、自分で扉を開き飛び出す様に車を降りた。
「お、おい大丈夫かよ?もしかして……車酔い?」
少年は心配そうに僕の顔を覗き込むと、そっと僕の腕に手を触れようとした。
しかしそれを身を引いて避けると、静かに少年を見つめる。
「……君の……名前は?」
震える僕の問いに少年は首を傾げたまま小さく口を開く。
「……明。須藤……明」
その彼の答えに……愕然とした。
運命とはなんと残酷で非情なモノなのだろうか。
カタカタと震える拳を握り締めたまま、微かに唇を噛み締める。
「ごめん。車に酔ったみたいだ。……今日は帰るね」
それだけ言うと少年に背を向け、逃げるようにその場を離れる。