「知らないの。名前も、年齢も、何してる人かも」

ノラはそう言って手にしたニンジンを手早く洗うと、俺の手から包丁を引っ手繰る。

「知らないのに……好きなの?」

「そう。いけないの?」

「い、いけなくはないけど……」

……誰か……知りたい。

……ノラの好きなる男。

……一体……誰が……

瞬く間に俺を醜い心が支配し始める。