「はい、生まれました~!」

院長が小僧を取り上げたその瞬間、助産師さんが私の体に乗せられたバスタオルをばっと引き抜いた。

な、なぜ?!

イリュージョンショーで助手が檻に掛けられた布をめくるかのように、はたまたテーブルクロス引き芸かのようにバスタオルは見事に剥ぎ取られ、私の裸体があらわになった。

「男の子でーす」

助産師さんが笑顔で小僧を私のお腹の上に乗せてくれた。

そうか、ママと赤ちゃんの肌が直接触れ合うように今私は素っ裸なのか。

まだ片方しか開いていない小僧の左目が私を見ている。

「ちっちゃい~」

私はマヌケな声を出した。

出てきた、出てきた。

小僧が出てきた。

夫も「生まれた~」と嬉しそうに笑っている。

すぐに小僧は助産師さんに連れて行かれ、夫もそれに付いて行った。

頭の後ろの方で小僧の泣き声が聞こえる。

ああ、目が合った。

生まれたばかりの赤ちゃんの目はほとんど見えていないらしいが、小僧の小さな瞳は確実に私を見ていた。

後で夫に自慢しよう、家族たちにも自慢しよう。

誰も信じてくれなくてもいい、私だけの喜びにすればいい。

アイドルのコンサートで「○○君と目が合ったの~」と言って周りの人間にハイハイ、とあしらわれる子の気持ちが今ならわかる。

皆は信じてくれないけど、確実に目が合ったのだ。

「2820gです」

助産師さんの声が聞こえる。

すると足元からちょうどいいんじゃない、と言う院長の声が聞こえた。

ふと見ると院長が私の足元でひとり黙々と産後の処置をしてくれている。

体をキレイにしてもらった小僧は夫に連れられて家族たちの元へお披露目に行った。

私はここで1時間程安静にしていなければならないので、分娩台から再びストレッチャーに移された。

裸体の上に大きなバスタオルと布を掛けられた。

「ご安産でしたね」

院長が言った。

「そうですか、ありがとうございます」

院長の顔を見てふと予感を感じた、

ひょっとして、また例のワードがでるんじゃ・・。

「マタニティビクス40回のおかげだね」

笑顔でそう言って院長は分娩室から出て行った。