麻酔を開始して10時間。

10日の昼前に義父母と私の家族たちが病院に到着し、皆物珍しそうにモニター装置を見ている。

二人の母親たちは「全然痛くないの?」とかなり不思議そうな顔だ。

まだまだ時間がかかりそうだよと告げると家族たちは近くの雑貨屋へ買い物に行くと言って出て行った。

無痛分娩とは言え娘がこれから出産だというのにのん気なもんである。

夫はと言うと、普通分娩のように陣痛に苦しむ奥さんの腰をさすったり励ましたりする必要も無いので、地味にお茶をすすりながらもっぱら私と世間話だ。

昼過ぎから助産師さんに「もうちょっとですからね」を連呼されている。

「もうちょっと」だという小僧の具合の方は少しずつ下に下りて来ているようで、お腹の張りも徐々に30分おき、20分おきと感覚が狭まってきた。

そして張りを感じる度に痛みでは無いがズドーンとした重みを感じるようきなってきた。

痛い訳では無いが思わず「ゔっ」と声が漏れる。

時刻は夕方の5時を回り、院長先生が最後の内診を行った。

とうとう子宮口が全開になったらしい。

お腹の張りは5分から3分おきくらいに来ている。

夫が病院を出て家族たちに連絡を入れに行った。

「ほら、赤ちゃんの髪の毛が見えてるよ」

院長の言葉に助産師さんたちがわあ、と声を上げた。

髪の毛が見えてる?

すごい、もう出そうってことだ!

みんなが私の股ぐらに注目して歓声を上げている。

何ともおかしな光景だが、私は心の中で「小僧、頑張れ」と何度も繰り返し叫んだ。

そしてストレッチャーに乗せられ、分娩室へ移動することになった。

いよいよ最後の「えらいこっちゃ」が始まるのだ。