次の日。

朝一番で受付を済ませるとすぐに名前を呼ばれ中に入った。

今日は院長先生が担当の日らしい。

両親教室以来だ。

お久しぶり、私は心の中で呟いた。

超音波の機会をお腹に当てながら院長は言った。

「どこが痛いって?」

聞かれて私は困った。

痛みのある部分は非常に説明しづらい場所なのだ。

「あのー、膀胱の下辺りですかね。右側だけなんですが」

「膀胱の下?」

院長は甲高い声を出した。

「はあ、その辺りです。鼠蹊部って言うんですかね」

「はいはい、それは赤ちゃんとは関係無いね、大丈夫。じゃあやること無いから赤ちゃんの顔でも見せましょう」

院長はそう言うとエコーの画面を3Dに切り替えた。

院長の「やること無い」発言がちょっと引っかかったが、妊娠関連の雑誌で見たことのある、3D画像が映し出され私は興奮した。

顔がはっきりと見える!

すると看護師さんが言った。

「わあ、鼻の形がママそっくりね」

ガーン。

自慢じゃ無いが私は鼻が低い。

夫は鼻筋が通った高い鼻をしているのだが、私には鼻筋が見当たらない。

頼むから鼻だけは私に似てくれるなと思っていたのに生まれる前から残念な結果になってしまった。

そうだ、それよりあの痛み。

自分のせいで鼻の低い小僧の顔に気を取られて忘れるところだった。

院長は私が痛い箇所を押して確認すると「はいはい、ここね」と頷いた。

「鼠径ヘルニアだね」

そけいヘルニア?

「鼠径部分に腸の一部がはみ出しちゃっているんだね。妊娠すると子宮が大きくなって筋肉が緩んでしまうから飛び出しちゃうんだね」

腸がはみ出る…ってことは。

「脱腸、脱腸」

ガビーン。

だ、脱腸・・。

院長は説明を続けた。

「妊娠が原因だから出産すれば治りますよ。立ちっぱなしだと痛くなるから痛くなったら横になって」

心配していたばい菌では無くて安心したが、まさか脱腸とは。

加えて小僧の鼻が自分に似ている事実も発覚した。

夜、帰宅した夫に「鼠径ヘルニア」だったことを伝えると案の定大笑いされた。

妊娠して脱腸するなんて初耳だった。

遺伝もあるのかと思い実家の両親に聞いてみた所、なんと父も母も子供の頃ヘルニアを経験済みらしい。

父は楽しそうに「脱腸家族なんだよ」と言っていたがそんな家族、正直嫌だ。