「まあ…いいや、有り難う」

「まだ何にもしてないんだから、お礼言われてもねぇ」

「『おめでとう』って言ってくれたじゃない。それとも、何かくれるの?」


冗談のつもりで発したその言葉に、愛美は「そう、ね…」と小さく呟く。


「ケーキくらいは奢らせて」


ケースの中から指を引き抜き、愛美がようやく私の目を見てそう言った。
大きくて切れ長の目。アイラインを太く引いて、マスカラをたっぷり塗った目は、いつも威嚇するように私を見る。
だけどそれは愛美の外見がそうさせているだけ。
背が高くスレンダー、狐顔の美人で、メイクも濃い愛美。
短い金色の髪にくしゃりとワックスを揉み込み、そこから覗く可愛らしい両耳にはピアスが隙間なくずらり。
女の子だけのうちの売り場で、唯一ユニセックスな雰囲気を醸しているのが彼女だ。