あまりに吉祥寺に帰らないもんだから、たまに吉祥寺の家の家賃がもったいないと感じるけれど、恋愛にはどういう形であれ代償は付き物だと思っているから。













私の隣で同い歳の愛美(あいみ)が、陳列されたリングを並び替えて言う。


「誕生日おめでとう」


伝票の束をめくっていた私の手が止まり、愛美の横顔を見た。
ばさばさの濃い睫毛をしばたたかせ、愛美はリングに目線を落としたまま手を止めない。


「このタイミングで?」

「ごめんね、今思い出したの」


愛美は私のことなど見向きもせず、ばらばらに散らばったリングをせっせと整列させていく。
愛美の細く長い指先が、ガラスケースの中で踊る。
そのたびに、シルバーのリングが鈍く光った。
昨日は愛美は休みだった。
一昨日は私が休みだった。
愛美が私の誕生日を忘れていたことは、どちらかと言えば自然なこと。