こういう時、匠は大概私を見ようとしない。
私はそれを逆手に取るように、匠の顔を真っすぐに見つめた。
見飽きるほど見てきた顔は、未だに見飽きることがない。
初々しい恋愛感情がなくとも、それでもやっぱり匠には情がある。それは依然として変わらない。
そして何より、若さゆえに焦がれてしまったその時から始まったビジュアルが、高校生の時と殆ど変わらない有様に、私は再認識する。
“この姿形が好きだ”、と。


「だって、それが匠の仕事でしょ?」


それはまるで自分に言い聞かせるかのような声だった。
広くない浴室に、無情に響く。
誰だって、普通の神経の持ち主なら厭わないはずがない。
だけど、私は違う。
清濁併せ飲む度量があるのだと、自負している。
本当は、匠が私に「仕事を辞めて」と言って欲しいことは分かっている。