ふと、匠の濡れた髪の先、首と肩の付け根に、赤い痕跡が見えた。
思わず目を細めて、そこに目線を集中させる。
歯型か、はたまたキスマークか…どちらかは判別がつかないが、どちらかであることは確かだ。
大方、客のせいだ。私はそんなことは絶対にしない。
傷物にされちゃってさ。間抜けな奴。
なぜだか、いつかここに乗り込んできた少女の顔が浮かんだ。
はっきりとした顔立ちは記憶していないけれど、とても若かったことだけは悲しいくらいしっかり覚えている。
そんな私の目線に気付いたのか、匠は「あっ…」と小さく息を漏らして、そこを指先で掻いた。
ちゃぷんと、水面が揺らいだ。


「…あやめは、さ」


跳ねた水玉の先に、匠が視線を落とす。


「俺が他の女とセックスするの嫌じゃないの…?」


目を私から背けたまま、消えそうな声で言った。