私の前では甘えさせて好きなようにさせていたけど、匠はきちんと仕事をしている。
私との感覚が違うだけで。


『ナオだって、毎月No.5には必ず入ってるらしいしね。店にとっては大事な人材ってことか』

『それはまあ、多少あるのかもしれませんが…』


厭味の片鱗も感じさせず、ナオは言った。


『俺の場合は、中途半端だから辞められない』


つまるところ、目の前にいるこの子は本心では辞めたいのだと悟る。
彼女に棄てられたくはないだろうし、かと言って、店から棄てられたいかと言えばきっとそれは違う。
どちらかを選ばなくてはいけない、いや、答えはおそらくナオ自身はきちんと分かっているのに、その答えを得ることができずにいる。
世の中には、根底は簡単なくせにそこに辿り着くまでが難しい物事がとても多い。