彼女が少しだけ羨ましいな、なんて邪な想いが一瞬だけ脳裏を掠める。


『でも、事実惚れちゃってるわけじゃん』

『ははっ、そうなんすよ』


渇いた自嘲を零して、ナオは煙草に火をつけた。
そこに悲壮感はない。
紅をさしたように朱く薄い唇から吐き出された煙が、細く長く天井に向かって立ち上る。


『でも、それって何よりも大事なことだと思うけどな。私や匠は、その感情が枯渇しているから』


私は過去の匠に縋り付くあまり、現状、好きだ愛しているだなどという甘いものはない。
匠は未来を得たいと私を利用し、依存している。
利害一致と言えばそれまでで、しかしながら世の中の男女なんて利害一致でなければペアにならないじゃない?
要は、私達はちょっと歪んでいてちょっと欠落しているだけで、その関係性は変わらない。