『あやめさん、匠さんがこんな仕事してるの嫌じゃないんですか?』
匠が『ちょっと電話してくる』と席を立った時のことだった。
まるでその機を伺っていたのではないかと思ってしまうばかりに、店から出ていく匠の姿を確認するや否や、ナオは即座に口を開いた。
なぜ今突然そんなことを聞くのかと言うのは無駄なことで、電話の相手が客であるということが二人とも察しがついたからだと思う。
『うーん…あんまり考えたことない、かも』
私の回答に、ナオが細い目を見開く。
きょとりとした表情にはまだ幼さが残っていて、やっぱりナオも私より随分と若いんだなあと再認識した。
『そうなんだ…あやめさんって、普通の女の人なのに』
『やっだ、勘弁してよぉ。匠と付き合っている時点で、普通じゃないから』
けたけたと笑いながら、私は手元の梅酒ソーダ割りを煽った。