淡々と説明する匠の心理が、今ひとつ読み取れない。
怒っている様子もなく、悲しんでいる様子もなく。
かと言って全くの無関心というわけでもないだろう。


「…ナオ、が?」

「ナオが」


匠が復唱する。


「…ふーん。奇特な奴」


私は“有り得ない”とは言わなかった。
テレビのリモコンに手を伸ばす。
チャンネルを一通りぐるぐる回してみるも、今の私が興味を持てそうな番組はどの局もやっていなくて、仕方なしにニュース番組に腰を落ち着けた。
フライパンを洗い始めた匠にちらりと見遣り、私は思う。
匠には言えないけど、推測するに、それはナオの策だったんだ。
ナオが辞めたがっているのは、何となく分かっていた。
ナオはわざと問題を起こしたに違いない。
と言うのも、以前ナオを交えて3人で居酒屋に行った時、そう確信せざるを得ないことをナオが言っていたから。