今日の晩御飯は、匠お得意の和風茸パスタかな。
殆ど自炊をしない匠の料理のレパートリーは、あんかけ蟹炒飯と焼きそば、パスタのバリエーション数種。
匠が休みで私が仕事の日は、決まって匠は晩御飯を用意して待っていてくれる。


「ただいま」


フライパンを振るう後ろ姿に、声を掛けた。
匠は一度熱中すると、途端に周りが一切全く見えなくなる。
私が帰ってきたことなんて、こちらから発しなければまず気づかない。


「あっ、お帰りー」


フライパンから目を離さず、匠は気のない返事をした。
何かに集中することはいいことだ。
私の存在が見えなくなったとしても。
私はソファーに腰を下ろし、身につけていた重たいシルバーのジュエリー達をひとつずつ外した。
うちの店のと、そうでないのと、じゃらじゃら着けるのが好きだ。