「朝。10時になるよ。今日は仕事なんでしょ?」

「…起き、ます」


匠の返事に、私は踵を反す。
あとはもう、匠は勝手に起きてくれるだろう。
自己管理能力には私よりも長けている。
寝室に併設されたクローゼットからトレンチコートを取り、素早く羽織った。


「あやめ、行ってらっしゃい」


布団の中から、匠の声だけがした。
一緒に住んでいれば、1日2日くらい匠の顔なぞ見なくても寂しくないのだ。
今まで、散々見飽きるまで見てきたのも理由のひとつに挙げられる。
高校生の頃から、匠の顔は変わらない。
私が匠を知ったのは高校1年生の時。
匠はひとつ年上の先輩で、生徒会長だった。


「行ってきます」












新宿の街は好きじゃないけれど、新宿に住んでいると通勤に電車を使わなくて済むからとても便利だ。
それに、始業のちょっと前に家を出ればいい。