出張ホストクラブ「セーラム」のNo.1を丸々休みにさせるなんて、そう簡単にできるもんじゃない。
もっとも、私が好きなのは「セーラム」の匠ではなく、今も昔も「高校生」の匠だけ。














一通りの身支度を済ませて、私は寝室に戻る。
静まり返って真っ暗な部屋は、私をベットへと誘う。
もう眠くないと言ったら嘘で、目の前の温かな布団が悪意もなく誘惑していた。
誘惑に負けそうな思考を、ぶんぶんと頭を振って揺さ振り落とす。
私は今から仕事に行かなきゃいけない。


「匠、起きて」


足の先から頭のてっぺんまで羽毛布団を被る匠を、私は揺さぶった。
数秒の間があって、匠を包む布団が柔らかく動いた。


「…もう、朝?」


布団越しの、くぐもった匠の声。
甘くて優しい、こんぺい糖みたいな匠の声が、私は好きだ。