私は2脚のグラスを流しに置き、ボトルを冷蔵庫に入れた。
帰ってきたら飲もう。
卵やら牛乳やら最低限の食材しか入っていない冷蔵庫の中には、シャンパンと一緒に食べたファブリス·ジロットのボンボンがまだ少し残っている。
これも、匠が用意してくれたもの。
私と年齢差のない匠がこんな気の利いた演出をするのは、匠の職業病なのだと実感する。
冷蔵庫の前から立ち上がり、軽く伸びをして、私はやっと部屋のカーテンを開ける。
ビルに囲まれて日当たりのよろしくない我が家でも、カーテンを開ければこの時間は少しだけ部屋が明るくなる。
新宿の街は光化学スモッグのせいで、晴れている時でも曇っている。
匠はまだベットの中で猫のように丸くなって眠っていた。
昨夜は私の24歳の誕生日。
匠は仕事には行かず、終日仕事だった私を家で待っていてくれた。