飲みさしのシャンパンは、フルートグラスの中で静かに気泡を立てている。
手にとって口をつけると、炭酸が抜けて温くなったそれは昨日のものとは全く違う、苦いだけの物質に変わっていた。


「出勤前に飲酒は、ちょっとまずいよなあ…」


自嘲しながら、私はシャンパンだったはずのものを一気に飲み下した。
少しだけ胃が痛む。二日酔いなんて滅多にならないから、不快というより違和感に近い。
同じくテーブルの上に鎮座しているボトルを揺すると、ちゃぷんと音を立てた。
銘柄も分からない、だけど高そうなシャンパン。
折角匠(たくみ)が買ってくれたシャンパンだ、余さず飲みたかったけど、流石にボトルの中まで飲み切るのは朝から無理がある。
まあ、キャップを閉めてあるから、それほど劣化はしていないだろう。
そもそも、お酒がほとんど飲めない2人がフルボトルのシャンパンを開けようだなんて無謀なチャレンジだったのだ。