「タクシーの中でお昼は食べたし。誕生日プレゼントに贈るお菓子なら、自分が納得できるものじゃないと嫌だから」


びっくりする私をよそに、表情も声色も一切変えずに愛美は答えた。
ああ…愛美は、そういう子だったっけ。
だけど、多分今日匠は京都には行っていない。
匠が仕事から逃げ帰ってくると、私は予感したから、私は愛美の誘いを蹴ったんだ。
そしてその予感は見事に的中し、合鍵で玄関のドアを開けると、光りが零れてきた。
狭い1LDKの奥、リビング。
そこには、自分の家だというのに気まずそうに皮張りのソファーの上で小さくなっている匠の姿があった。


「…お帰り」

「ただいま」


スウェット姿の匠に、私はもう、何も言わなくても全てを理解する。
テレビもつけず、音楽もつけず、ただ、匠はそこに座っている。


「ごめん、俺…仕事休んだんだ…」


怖ず怖ずと私を見上げる匠が、言いにくそうにそう呟いた。
私は鞄と愛美がくれたお菓子をテーブルの上に乗せ、トレンチコートを脱いで壁のハンガーにかける。