『カラン♪カラン♪』

寝ていると、

遠くで

鳴り響いた。

純一は時計を見た。

午前4時。

「有喜!!」

純一は

急いで跳び起き

有喜の後を追う。

『ワン、ワン、ワン』

玄関先に置いた

人形が吠えている。

有喜は

見向きもせずに

スタスタ

歩いていく。

「有喜!!

　俺も一緒に行くよ。」

純一は

有喜に声をかけるが

見向きもしない。

有喜の目は

完全に正気を失っていた。

30分

歩いただろうか。

有喜は

疲れたのだろう。

公園のベンチに

座ったかと思うと

眠りについてしまった。

純一は

あどけない有喜の寝顔に

神への怒りさえ

覚えた…。

「何で…。

　なんで有喜だけが

　こんな目に…。」

純一は

今までこらえていた

気持ちが

一気に溢れ、

涙がこぼれた。

そっと

純一は

有喜を抱え、

家路に着いた。

有喜の徘徊は

月2回くらいの

ペースで起こっていた。

調子がいい時は

凄く気の利く

理想の妻だった。

純一は

元気な有喜の

姿を見るたびに、

ますます有喜の病が

憎かった。

調子のいい日は

完璧に

家事をこなす姿は

キャリアウーマン時代の

有喜らしかった。