病院に着くと、

有喜の姿はない。

窓口で有喜の事を聞くと

さっきまで母親と共に

目の前の椅子に座っていた

という。

純一は嫌な予感がし、

病院中を駆け回った。

屋上まで駆け登ったところに

肩を落とした

有喜の母親と、

有喜の姿があった。

有喜は身を乗り出し、

今にも落ちそうな状態である。
 
純一は思わず

大きな声で、

「御手洗さん!

 こんなとこで

 何してるんですか!」
 
有喜が振り返り

「純一~」

と手を振る。
 
「ここの眺めいいから

 見に行こうって、

 お母さんが誘うから

 来てみたの。

 ほんときれいよ。

 純一も来たのね。」

と、笑顔で答える。

有喜は屋上の柵から

身を乗り出している。

有喜の母親が

落ち着いた表情で言う。
 
「さっき違う病院で

 見てもらったんだけど、

 そこでもアルツハイマーだろう

 って言うの。

 だから、有名なとこまで

 足伸ばしちゃったんだけど、

 ここでもアルツハイマーだ

 って言うから、

 生きる希望なくしちゃった。

 もう、2人で

 いっそのこと

 死んじゃおうかと思って…。」

消して今から

自殺しようと冷静さを失ったようには見えない、

むしろ生きる気力を失っている

と言った表情であろう。
 
純一はカッとなり、

「あなたの勝手で

 こんな事しないで下さい!

 これは有喜が望んでるんですか?

 自分が認めたくないから、

 それだけで、

 有喜を

 こんな目にあわせないで下さい!」

純一は

有喜の母親を怒鳴りつけ

頬をひっぱたいた。

有喜の母も黙っちゃいない。