その日を境に、私と彼は時間が合うたびに通話をした。
時には一緒に放送したりと、二人の時間は多かった。
そのうちに彼のことを知っていった。
彼は私より2つ上の社会人だということ。
北海道に住んでいるということ。
彼自身は実家から通勤しており、引っ越していったけど兄と姉がいるということ。
甘いものが大好きなこと。
彼に自覚はないが、どうやら「草食系男子」のようだった。
そして、名前。
放送するときは、どの人もペンネームを使っていた。
私と彼も同じで、本名とは別の名前を使っていた。
私は「あいこ」、彼は「りゅうげつ」と言った。
そして、彼は私のことを「あいこさん」と呼び、
わたしは「りゅうくん」や「りゅう」と呼んでいた。
数週間後、通話中に、名前の話になった。
「なんでりゅうくんは「あいこさん」なの?あいこでいいのに。」
『いや、なんかさ…人のこと呼び捨てにするの慣れてないから、ちょっと抵抗があってね。』
「あはは。分かるよ。
私も、敬称つけるかニックネームじゃないと呼べないもん。」
『はは、だよね』
「ね、だったらニックネームは?」
『ニックネーム?』
「あい、とか」
『え、ええ!?』
「ふふ…ね、どう?」
『う、うーん……』
彼の反応は予想済み。
そうやって戸惑う姿を見るのが、最近の楽しみだ。
そして、
『で、でも僕、そういうのちょっと…
…恥ずかしい……』
そう恥ずかしげに呟くのがなんとも可愛い!
いたずら心をくすぐられる。
からかえばからかった分だけ、恥ずかしがったり、照れたりする。
そしてそのせいで声が小さくなる。
しかし、逆に褒めたりすると、とても嬉しそうに話すのだ。
宛ら、子犬のよう。
彼の姿は見えないが、尻尾をブンブン振る子犬を連想してしまう。
だから私は、この状態のときの彼を、「りゅう犬」と呼んでいた。
男らしいというにはちょっと違う、甘いモノが大好きな彼。
かといって女々しいわけではない。
彼には年下の少年のような可愛さがあるのだ。