死んだら全てを失う。
人を殺す事も同じ事が言えるだろう。
命を奪ってそれを背負い続けながら生きる。
そんな覚悟は出来ていない。
もう一人を殺したらもうこの事は忘れて平凡な日常をやり直すつもりだ。
今では退屈な日常が、当たり前の日常がありがたく感じられる。
俺は平凡な日常の価値を知った。
なら尚更それを取り戻す為に全てをこの手で終わらせなくてはならない。
今まで世界の狭さを嘆いたり社会の愚かさを見下したりしていた自分が馬鹿らしく思えた。
今ではそんな下らない考えは俺の頭にない。
生きる事への欲求。
そう…命や世界を今まで軽く見ていたにも関わらずいざ自分の死が迫るとそんな世界にだってすがり付く。
それは筋が通らないと言う人だっているだろう。
確かにそうかもしれない。
だが己の命よりも己の筋を大事にする者等果たしているのだろうか。
表面上そうは言っているとしても心の奥底では自分が可愛いに違いない。
俺だけじゃないはずだ。
多くの人間は俺と同じ状況下なら筋は通さないだろう。
結局人間らしさって何だろう。
道徳的な人間が人間らしいのか……。
それとも欲望に汚染された人間が人間らしいのか……。
俺にはわからない。
だがそんな事はどうでも良い。
他人がこの状況下で筋を通すとしても俺は通さないし誰もが道徳的だとしても俺が道徳的に生きる理由にはならない。
それだけだ。