「人はいつかは死を迎える運命だ。
お前がもしもう一人を殺してもどうせいつかは死ぬのだ。」
神主はお構い無しに話を続けた。
俺は死を恐れ硬直していた。
いつかは死ぬといってもその遠い未来はしっくり来ない。
今目の前に迫る恐怖。
体で感じ取れる恐怖が頭を巡る。
目の前が真っ暗で頭の中は真っ白。
その時俺はもはや神主の言葉等耳にしていなかった。
そう……誰であろうと俺の考えは曲げられない。
俺が生き残るんだ。何としても。
もう一人の未来を同情する気もない。
奴が俺の死ぬ原因となるのなら芽が若いうちに摘んでおきたい。
ただ……善意とは別の物が殺生の妨げになる。
恐怖…。命を奪うことに対する恐怖。
俺は捨てなければならない。
未来を得る為に捨てなければならない。
恐怖心を完全に消さなくてはならないのだ。
俺は己の恐怖を抑えようと必死になった。
冷静になれ………!
恐怖を捨てなきゃ未来はない!
その時の俺の表情の変化を神主は察した。
「ちなみにもう一人は……まだ結論を出してはいなかった。
まだ結論を急ぐ必要はないだろう。」
神主は語りかけてきた。
それは耳にだけではなく頭の中にまで…。
だが神主の言葉が俺を迷わせる事はなかった。