もう一人

ただのゲーム好きか…。
あまりこいつに危機感を持つ必要はない。
だが俺の方から不自然な動きをする訳にもいかない。
幸い今は夏休み。
知り合いに合う機会も平日より少ない。
この好機を逃す訳にはいかない。
俺は人を殺さなければならないのだから。
俺は所詮臆病者だ。
他人の為に死ぬ事は勿論、自分の為であっても死を恐れて生きようとする。
だがそれがきっと普通なのだろう。
殺すのも死ぬのも周囲の人々も怖い。
怖い、怖い、とにかく怖い。
生まれた事で多くの物に俺は怯え続けて死まで恐れている。
人はきっと死ぬより生きる方が幸せだ。
同時に生きるより生まれてこない方が幸せなのかもしれない。
だが今更生まれた事を嘆くのも馬鹿馬鹿しい話だ。
普通で退屈でマンネリな生活は今、俺にとって手の届かない所にある。
今になってあんな生活のありがたみを知る。
今はまだ失う物もあるがもう「命」と「人生」しか失う物はない。
一刻も早く「もう一人」を殺せばまた普通で退屈でマンネリな生活を取り戻せるのだろうか。
警察にバレるくらいなら死んだ方がマシだ。
だが死にたくないし警察にもバレたくない。
俺は平凡な生活を取り戻す道を選んだのだから。
「もう一人」が人間なのはわかっている。
だが「もう一人」の命を殺めても俺は悪くない。
仕方のない事なのだ。
命を保つ事は生きる者全ての本能なのだから。