賢「痛みがあるお前が、ただの道具か?橘を神木と関わらないよう気を付けたお前がただの道具なのか?」
翠「………」
賢「翠?お前は人間だ。今まで見てきた人間で翠ほど心の美しい奴はいない。俺が保証するんだ。文句あるか?」
ニッと悪戯っぽく笑う阿部先生は、15年前のあの頃と変わらない。
翠「フフッ。いいえ、ございません。光栄です兄様。」
ニコッと笑うと満足そうに阿部先生も笑い、再びギュッと抱き締められた。
賢「今日で…帰っちまうんだな。」
翠「…はい。ジジ様には逆らえないから…」
賢「焦ってお前に想いを告げてしまったが、やはり答えはまだ言わなくていい。しばらくは考えてくれ。」
翠「考えてくれって…」
見上げると少し困った顔をしている先生。
賢「実は、俺もお役目の依頼がきてんだ。それを片付けたら神木家の本家に顔を出す。早いとこ片付けるから、お前もお役目頑張ってくれよ?そんで、答えを聞かせてくれ。」
翠「危険、ですか?」
賢「さぁな。詳しい内容はまだ聞いてないが、兄貴の声の調子から一筋縄ではいかないだろう。」
ギュッと彼のYシャツを掴む。
翠「お気をつけ下さいね。私の答えを聞きたいなら、必ずお帰りください。」
賢「ああ、お前もな。」
お互い頷き、微笑み合った。それから慎重に倉庫から抜け出し、ゆっくり散歩しながら『ヒマワリの家』に向かったのだった。