「そんなあからさまに困った顔すんなって。これからは無闇に触らないように気を付けるから」



そう言って先生は私の頬から手を離した。


でも私は離れていくその手を、両手で掴んだ。



「鳴海?」



掴んだ手に力を込める。



「…やだ」



「何が…?」



「…離しちゃ、やだ…」



いつの間にか、私の目からは、また、涙が零れていた。



「…じゃあ、聞いていいか?」



先生の声にビクッとなる。



「怖がんなくていいよ。…なんでさっき、俺から逃げた?」



その質問にも私はただ俯いているだけ。



「答えられない?」



そう聞かれて、コクンと頷く私に、先生は、はぁとため息を吐いた。


誰も通らない、放課後の廊下。


先生のため息が大きく聞こえた。



「ちょっとこっちおいで」



私の手を掴んで、先生は前を歩く。



その背中をぎゅってしたいと思った。



だってこんなに近くにいるのに…。



「…好きです」



無意識のうちに気持ちを口にしてしまった。

届くか届かないかの声で。


それでも、先生は黙ったまま前を歩いてる。